CO2モニターまとめサイトの管理人をしている「80年代の生き残り」と言います。前身のTogetterページを始めたのが2020年9月26日でそれ以来、換気対策としてのCO2モニターの情報を集めてまとめてきました。
ここでは空気感染や換気の重要性とCO2モニターによる視覚化がどのような経緯を経て広まったのか、その過程で何が起きたのかを、国内外のTwitterや論文を参照してCO2モニターのまとめサイトを作成していた私の目線からまとめたいと思います。
時系列でまとめていますが、分野別まとめは本体のサイトを参照してください。
黎明期
2020年10月まで
パンデミックが始まった当初はCO2測定による感染対策は非常にマイナーでほとんど知られていませんでした。この時期は先行したヨーロッパのエアロゾル科学の専門家コミュニティや論文の情報を参考にしながら「こういう方法もあるんだ!」というのをひたすら発信していた時期でした。
2020年3月18日
政府が初めて「3密防止」を呼びかけ
3密はクラスタ事例の観察から生まれたものでした。しかし空気感染の存在を強く示唆し、結果として換気の重要性を強調したものであったため、日本において換気をはじめとした対策が進むことになったと思います。これによってCO2モニター活用の下地が作られました。
2020年3月28日
WHOが空気感染を否定する
COVID-19の空気感染を否定するWHOの発表。これにより世界中の政府・医師の間で空気感染を否定する論調が決定的になりました。ソーシャルディスタンスが強調され、マスクや換気は不要という誤った対策が世界に広がりました。WHO自身はおそらくどこかの時点でこの誤りに気づいたのではないかと思います。しかし自らの過ちを認めることは最後までできませんでした。2021年には変異株の脅威により事実上この方針を撤回することになります。いつかこの誤ちの原因と影響が検証される日が来ることを期待しています。
2020年4月ごろ
国内で空気感染対策を訴えるグループからCO2モニター推奨の声が出始める
もともと眠気防止など空気質測定目的でCO2モニターは用いられてきました。感染が深刻化した4月ごろから徐々に「三密」を客観的に測定する方法として、普及を訴える声が見られるようになってきます。
日本国内では特に匿名の医師 @AirborneKanki (通称エアボーン換気先生) や環境問題の専門家松島康浩さんが活動を始めています。また老舗もCO2モニターメーカー CHC社も積極的な情報発信を始めています。
2020年初夏から夏にかけて
日本では三密が浸透するとともに客観的に測定する方法としてCO2モニターが注目を集め始めます。医師の中にもCO2モニターによる換気の監視を推奨する人が徐々に増えました。
2020年7月
空気感染ジャー事件
空気感染・エアロゾル感染を強く否定する専門家が現れ、検査戦略とともに大きな論点となりました。混乱した背景には空気感染に対する恐怖心や公衆衛生におけるリスクコミュニケーション戦略の食い違い、化学と医学におけるエアロゾルや空気感染の定義の違いなど複雑な要素が絡んでいたように思います。

空気感染ジャー事件はこの食い違いの深刻さが分かりやすい形で表面化した事件でした。悪魔の提唱さんのまとめがわかりやすいです。
2020年8月26日
米国科学アカデミーSARS-CoV2空気感染ワークショップ
アメリカの感染対策をリードするファウチ氏が参加して空気感染に関するワークショップが開催されました。このワークショップがきっかけとなりファウチ氏はエアロゾル感染を認めるようになります。エアロゾル感染を訴えるグループが勢いづく契機となりました。しかしトランプ政権下で常識的な対策(例えばマスク)さえままならないアメリカの状況下もあり、CDCやWHOの方向転換は年明けになります。
2020年8月30日
「COVID-19 エアロゾル感染から身をまもるFAQ」が公開される
科学アカデミーのワークショップに参加した科学者が中心となり、FAQが作成され第一版が公開されました。CO2モニターを用いた感染対策とその制限が詳細に解説され、その後バイブル的な役割を果たすこととなります。
2020年9月25日
Togetter上でCO2モニターのまとめページの作成開始
9月になるとCO2モニターへの関心が高まるにつれてどの製品を選ぶべきかという問い合わせがTwitter上でも多数やりとりされるようになりました。エアボーン換気先生などが一つ一つ返答する状況になっていたため、情報をまとめたページの作成を開始しました。特にメディカル・アンティークさん ( @medical_antique ) とChatteenirisさん ( @lachattenoire78 )には当初から継続してご協力いただきました。
2020年9月-10月
CO2モニターの個人利用が広がる
感染が拡大するとともにCO2モニターに対する関心が高まりました。大量に情報が寄せられて、連日まとめサイトの更新を行うこととなった。嬉しい悲鳴の日々。皆様、本当にありがとうございました。(ここで紹介するのはほんの一部です。このサイトのあちらこちらにこの頃のTweetを見かけるかと思います。)
CO2モニター急拡大期
2020年11月 – 3月
2020年11月9日
分科会尾身会長が緊急提言の中でCO2モニターによる換気対策を推奨
11月9日は大きなターニングポイントとなりました。国のコロナ分科会尾身会長が記者会見において換気管理におけるCO2モニターの重要性に言及しました。この記者会見をきっかけとして政府が推奨する感染対策として認識が広がります。
11月後半にはCO2モニターの売り切れが続出し、人気のある製品が手に入らない状況になってしまいました。
2021年11月7日
「COVID-19 エアロゾル感染から身を守るFAQ」CO2モニターに関する章の日本語訳を公開
「COVID-19 エアロゾル感染から身を守るFAQ」の内容は素晴らしく、個人的にバイブルとして読み込んでいました。しかし日本では自動翻訳では読みにくいこともあり、なかなか広まりませんでした。そのため一番重要な9章「CO2濃度による換気の監視」を人力翻訳することを決めて時間のあった土曜日に一気に翻訳して公開しました。
公開当初は反響が小さかったのですが、後に多くのアクセスを集めることになります。
2020年11月
「情報が増えてサイト更新が追いつかない!」
尾身会長の会見を受けてCO2モニターに関する情報は一気に増加します。マスメディア、ソーシャルメディア合わせて大量の情報が流れ始めサイトの更新が追いつかない状況になります。
以下は11月11日、一日の更新です。

2020年12月
この頃にはお酒を出す飲食店が感染源になっているという認識が政府に広がり、飲食店を狙い撃ちにした休業要請、時短要請が出され続けます。その過程で飲食店が行うべき対策としてCO2モニターによる換気の監視が奨励されました。
2020年12月
11月後半からCO2モニターが品切れとなり入手が困難になりました。この状況は年が明けても継続したため、どのように入手するのかが大きな関心事となりました。「どれもこれも品切れの時」はこうした状況下で可能な限り精度の高いCO2モニターを入手するためのTipsをまとめたページです。
2020年12月13日
南アフリカ変異株発生
12月に入るとイギリス型(後のアルファ型)、南アフリカ型(後のベータ型)といった変異株が次々の発見され、空気感染のリスクがさらに高まります。南アフリカ株の第一報は衝撃的な1000人集団感染でした。
2020年12月15日
TOAMIT CO2マネージャー発売
飲食店での感染対策としてCO2モニターに脚光があたり各自治体が購入補助を拡大しました。そんな市場を狙って東亜産業がCO2マネージャーという商品を発売しました。他のCO2モニターが品薄で販売が広がらない中、なぜか大量の仕入れを確保。大きく見やすい濃度表示、安い価格などがあいまって大ヒット商品となります。日本の自治体の補助金のかなりの割合がこの製品に使われた印象です。私も人柱として購入し精度や校正の方法を確認しました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000042458.html

2021年12月
変異株の広がりと同時に学校での感染対策にも注目が集まりました。そんな中、港南中学校の事例はロールモデルとなりました。
2021年1月7日
首都圏各都県などに緊急事態宣言発令
年末年始の感染状況はひどく、年を明けてからの緊急事態宣言発令は遅すぎたという世論の判断は内閣の支持率低下として現れました。
2021年1月
まとめサイトをWordpressに引越し
2020年中はTogetterを使っていましたが情報が多くなって編集が極端に難しくなったこと、TogetterのMarkdownでは比較表の作成が極端に難しかったため、Wordpressに移動しました。一度に移行したわけではなくここから数ヶ月をかけて全コンテンツを移動しました。
2021年2月28日
吉村大阪府知事CO2モニターをアピール
吉村知事は非科学的な対応の推奨など減点続きだったのですが、スタンドプレーであるにせよこの発表は良いタイミングで発信をしてくれたと感謝しています。
2020年3月 – 4月
400ppm問題
NDIR方式の製品でも自動校正の精度が悪いものが多く、定期的に手動校正を行う必要があります。自動校正エラーの場合400ppmに張り付くことが多いため、「400ppm問題」と呼んで発信しました。
「エアロゾル感染」普及期
2021年3月 – 8月
感染力の強いデルタ株が引き起こした2021年4月5月の第4波、8月をピークとする第5波を通して「エアロゾル感染」という言葉がマスコミでも盛んに取り上げられるようになりました。それまではすぐに落下して短距離しか飛ばない「飛沫」という言葉が何故かエアロゾルをもカバーする用語として政府・マスコミでも使用されていました。この変化にはWHO・CDCが認めたこと、またサイエンスで情報を総まとめにしたレビュー論文が出版されたことも影響しています。しかしそれ以上に身の回りで起きるカラオケやコールセンターといった飛沫では理解できない「不思議な感染」がエアロゾル感染の概念で理解できることを一般の人たちが気づいたことが大きかったように感じます。この「長時間漂うエアロゾルによる感染」という概念が広まったことで、なぜ換気が大切なのかも浸透するようになってきます。
2021年4月30日
WHOと米CDCがエアロゾル感染を正式に認める
以下のツイートにあるK先生の「エビデンスが積み上がった時に死体の山じゃ困るの。」という一言はエビデンスを重視する現在の科学トレンドの「非人道的な側面」を考えさせられる一言でした。このパンデミックを通じて名言の一つだと思っています。
2021年6月
ベルギーがCO2モニターの設置を義務化
変異株の波に何度も襲われたヨーロッパ各国では段階的に空気感染を認めて換気を重視する方向に舵が切られています。これは6月のベルギーの発表です。
2021年8月27日
科学誌サイエンスで空気感染レビュー論文公開
「エアロゾル感染から身を守るFAQ」を執筆したメンバーが中心となって、エアロゾル科学の分野の主要な科学者かが共同で新型コロナの空気感染に関するレビュー論文を執筆し、科学誌サイエンスで出版されました。まさにマイルストーンとなる論文で、マスメディアでも取り上げられました。
2020年8月
「エアロゾル感染から身を守るFAQ」へのアクセスが急増する
このサイトへのアクセスは比較表ページへのアクセスが一番多く、FAQへのアクセスはごくわずかでした。しかし8月にアクセスが急増、サイト内でもっともアクセスの多いページになりました。数ヶ月を経て注目をされたのは「ようやく世の中がここまできてくれた」という思いがありました。

NDIR普及期
2021年8月 – 11月
エアロゾル期においてCO2モニターの自治体による義務化・無償配布が広がるにつれ品質への注目が集まりました。その過程で電気通信大学石垣研が廉価な製品のほとんどが粗悪品であることを実験で実証し、多くのメディアで取り上げられました。これにより「買うなら赤外線方式(NDIR)」が常識として広まり、AmazonなどではNDIR以外は販売されないようになりました。
2022年 第6波
TBD
第7波
TBD
第8波
TBD